試合は終わりました。会見で「見とけよ」と返した井上拓真が、那須川天心に3対0の判定で勝ち、WBC世界バンタム級王座を守りました。採点と全結果は那須川天心vs井上拓真2の結果にまとめています。この下は、試合2日前の会見の記録です。
9月27日の4大世界戦を前に、9月25日の昼、全8選手がそろう試合前記者会見が都内のホテルで開かれました。那須川天心と井上拓真が顔を合わせるのは、7月の開催発表会見以来です。話題の中心は、Prime Videoが集めたファン投票で天心が52.2%と上回ったことでした。拓真は「見とけよ」と返し、天心は「人気投票なんで」と切り捨てています。この記事では、会見の概要と各選手の言葉を事実で押さえたうえで、配信で会見を見ていた私の感想を正直に書きます。記者の質問の偏りや通訳さんの話など、選手以外の場面も最後にまとめました。
- 試合前記者会見の概要
- ファン投票をめぐる応酬
- 天心と拓真の会見での姿
- ほかの6選手の表情
- 記者の質問と会見の裏側
天心vs拓真2の試合前記者会見

会見は9月25日の12時ごろから、都内のホテルで行われました。壇上には4試合の8選手と、陣営や団体の関係者を合わせて18人が並んでいます。WBCのスライマン会長とIBFのピープルズ会長もそろい、4つの世界戦を1つの会見でまとめて紹介する大がかりな形でした。まずは選手が1人ずつ抱負を語り、そのあと記者の質疑応答に移っています。質疑応答が終わるまでがおよそ50分で、最後にフォトセッションがありました。会見の模様は、Prime Videoの公式YouTubeでライブ配信されました。
日時と場所
会見は試合の2日前でした。
9月25日の昼、都内のホテルで開かれています。天心と拓真が同じ壇上に並ぶのは、7月23日に新宿・歌舞伎町の屋外で行われた開催発表会見以来です。翌26日に前日計量があり、27日に試合を迎えます。
壇上に並んだ18人
選手8人のほかに、10人が登壇しました。
WBCのスライマン会長、IBFのピープルズ会長、帝拳の浜田剛史代表、大橋ジムの大橋秀行会長、拓真の父・井上真吾トレーナー、天心の葛西裕一トレーナー、六島ジムの枝川孝会長、坪井の田中繊大トレーナー、そしてグッドマンとマラジカの陣営のプロモーターです。これだけの顔ぶれが1つの壇上にそろうのは、4大世界戦ならではの光景でした。
4つの世界戦と配信
試合は9月27日、トヨタアリーナ東京で行われます。
WBC世界バンタム級タイトルマッチの拓真vs天心をメインに、西田凌佑vsサム・グッドマン、坪井智也vsリカルド・マラジカ、松本流星vsラッセル・アコスタの4試合です。Amazon Prime Videoの独占配信で、プライム会員なら追加料金なしで見られます。全カードはボクシング9月27日の対戦カードにまとめています。会見の全編を見たい方は、Prime Video公式YouTubeの「試合前記者会見」へどうぞ。
波紋を呼ぶファン投票結果

会見の前から話題になっていたのが、Prime Videoが公開したファン投票の結果です。勝者予想は天心が52.2%、拓真が47.8%でした。前回は拓真が3対0の判定で勝っており、元王者たちの予想も拓真の勝ちが多い中での数字です。この投票に、兄の井上尚弥がXで反応し、会見では大橋会長もこの数字を持ち出しました。天心への質問にもこの話題が入り、会見の空気を決める材料になっています。私が会見でいちばん印象に残ったのも、この場面でした。
尚弥のXでの反応
最初に反応したのは、拓真の兄でした。
井上尚弥は9月24日の朝、Xで「誰がどこから取ってきた集計かわからないけどこちらはより気が引き締まる。」と投稿しています。集計の出どころとは距離を置きながら、陣営への刺激として受け止めた言葉です。
誰がどこから取ってきた集計かわからないけどこちらはより気が引き締まる。 pic.twitter.com/A8fZP2xqjl
— 井上尚弥 Naoya Inoue (@naoyainoue_410) 2026年9月23日
大橋会長のあおり
会見でこの数字に触れたのは、大橋会長でした。
あいさつの最後に「プライムビデオの予想では拓真が不利になっていたので、大橋ジム一丸となって波乱を起こしたい」と話しています。王者の陣営が自分から「波乱」と言う、会長らしいあおり方でした。拓真本人も、記者に聞かれて「ますますやる気が起きた。本当に見とけよっていう感じ」と答えています。
「人気投票なんで」が真理
天心の答えは、短くて鋭いものでした。
「ごちゃごちゃうるさいんすよね」「自分らの物差しで俺らを測るんじゃねえ」と話し、最後に「人気投票なんで」と言い切っています。私はこの言葉が真理だと思いました。集計の母数も方法も公表されていない投票なので、勝敗の見立てというより人気の表れと見るのが自然です。
くどく感じた記者の質問
この話題には続きがありました。
天心が「人気投票なんで」と答えたあとも、声のかすれた記者が、再戦の理想像やほかの選手の再戦を例に、質問を重ねていきます。私には少しくどく感じられました。天心が答えを出したあとなので、もう少しあっさり次へ進んでもよかったと思います。
苛立つ天心

会見の天心は、いつもとは違って見えました。口数が少なく、表情もほとんど崩しません。報道でも「表情を崩すことはなかった」「バチバチモード」と書かれています。答えの中心は「何も考えることはないです。本能で戦います」という言葉でした。7月の開催発表会見で「絶対KOします」と宣言し、運営にまでいら立っていた姿とは、別の意味でとがっています。ここからは、会見を見ていた私の感想です。正直に書くと、今回の天心の態度には引っかかりが残りました。
いつものポエム
最後の質問への答えは、天心らしいものでした。
「一番強くて、一番かっこよくて、一番面白い、そして一番痛い俺が、俺のことを信じてる。だから絶対大丈夫です」。自信の裏付けを聞かれたときも「俺が、俺を信じてるからです」と答えています。この手のポエムはいつものことなので、そこは気になりませんでした。
深くかぶったキャップとぶっちょうづら
気になったのは、見た目と態度です。
天心は黒いキャップを目深にかぶり、ぶっちょうづらのまま会見を通しました。会見の全編を見ると、グッドマンが話している間も、画面の下のほうに天心がずっと映っていて、その表情が気になりました。会見後の取材では、拓真とは「目線も合ってない」と話しています。7月の会見で拓真も「1回も目を合わせてない」と言っていたので、2人が目を合わせないのは今回も同じでした。
いつもの拓真

天心とは対照的に、拓真はいつもどおりでした。白いキャップを後ろ向きにかぶり、いとこの井上浩樹さんがイラストを描いたTシャツ姿で壇上に座っています。答えは落ち着いていて、言葉も7月から大きくは変わりません。狙うのは完封という軸は一貫しています。ファン投票への「見とけよ」だけは、珍しく感情がのぞいた言葉でした。会見を見ていて、仕上がりのよさが顔つきから伝わってきたのが印象に残っています。
引き締まったいい表情
まず目についたのは表情です。
無理に強がる様子もなく、引き締まったいい顔をしていました。コンディションについては「ものすごく順調に来ていて、モチベーションも第1戦の時と変わらない」と話しています。
「120%」はリップサービスか
自信のほどを聞かれた答えは、数字でした。
拓真は「自信はもう120%あります」と答えています。ただ、ふだんの拓真はあまり大きなことを言わない選手です。私には、この120%は会見用のリップサービスに聞こえました。本当の自信は、数字より表情のほうに出ていたと思います。
変わらない完封宣言
目標は7月から同じです。
「第1戦の時のように、本当に全てに警戒して、全てに上回って、しっかり完封するだけ」。7月の開催発表会見でも「完封」を口にしていました。前回の判定勝ちを、もう一度より大きな差で再現するという考えがぶれていません。
選手たちの表情

メインの2人以外の6選手も、壇上でそれぞれの顔を見せていました。抱負はどの選手も短く、「コンディションはいい」「いい試合を見せたい」という内容がほとんどです。そのぶん、言葉より表情や雰囲気のほうに個性が出ていました。ここは発言の記録よりも、配信で見ていて感じたことを中心に残しておきます。4選手の公開練習の様子は、那須川天心vs井上拓真の予想【公開練習で見えた2人の仕上がり】で紹介しています。
いつ見ても優しそうな西田
西田凌佑は、いつ見ても優しそうです。
「明日はそのチャンスを掴みたい」と言ってから「明後日ですね」と言い直し、会場に笑いが起きました。グッドマンの印象は「思っていたより体は大きくない」。それでも「絶対取りたい」という言葉には、1度負けて再起してきた重みがありました。
会見でも大声援のグッドマン
海外の選手の中で目立ったのは、グッドマンです。
選手紹介で名前を呼ばれたとき、会見場に大歓声が起きました。記者会見で声援が上がるのは珍しい光景です。本人は「彼を倒すための武器を用意してきた」と話し、落ち着いた受け答えでした。
社会人経験を感じる坪井
坪井智也は、見た目の印象が独特でした。
眼鏡をかけた姿で、受け答えも落ち着いていました。社会人を経験してきたトップアマという印象です。ただ、言っていることは強気です。前回の無効試合を振り返り「自分の中で崩れてる部分がある」と気づいて積み上げてきたと話し、「出来はすごくいい。自信があります」と言い切っています。
一番ボクサーっぽい流星
見た目がいちばんボクサーらしかったのは、松本流星です。
顔つきも言葉も、試合前のボクサーそのものでした。「いいモチベーションのままここまで来れた。しっかりそれをリングの上で証明するだけ」と短くまとめ、同門の天心と坪井には「2人にいいバトンを渡したい」と話しています。
本田会長への敬意

会見でもう1つ印象に残ったのが、壇上にいない人への感謝の言葉でした。この興行を組んだ帝拳の本田明彦会長です。3人が名前を挙げてお礼を述べています。西田の陣営の枝川会長、グッドマンの陣営のプロモーター、そして帝拳所属の松本流星です。日本人の世界戦を数多く手がけてきた帝拳の大きさが、言葉の端々から伝わってきました。会見では、帝拳の節目の年であることにも触れられています。
陣営と選手からの感謝
感謝の言葉は、立場の違う3人から出ました。
枝川会長は、高額の入札でも試合を実現させた本田会長に「心よりお礼を申し上げます」と話しています。グッドマンの陣営のジョージ・ローズ氏も、まず本田会長へのお礼から話し始めました。松本は「本田会長が決めてくださった試合を勝ち続けるのが、自分のやるべきこと」と答えています。
日本最大のプロモーター
帝拳は、日本のボクシングでいちばん大きなプロモーターです。
今回も4つの世界戦を1日にまとめ、海外の選手と陣営、各団体の会長を日本に呼んでいます。これだけの興行を組めるところは多くありません。対戦相手の陣営までが本田会長に礼を言うのは、その力の表れだと感じました。
帝拳の100周年
会見では、帝拳の節目の話も出ました。
WBCのスライマン会長と、マラジカの陣営のプロモーターが、帝拳の100周年に触れて祝福しています。4大世界戦は、その節目の年の大きな興行という位置づけでもあるようです。
記者質問に思うこと

抱負のあとの質疑応答では、4人の記者が質問しました。気になったのは、質問が誰に向いていたかです。数えてみると、天心には4人全員、拓真には3人、西田には1人が質問し、ほかの5選手への質問はありませんでした。注目がメインに集まるのは当然ですが、せっかく8選手がそろった会見です。少しもったいない気がしました。聞き取りにくい場面もあり、質疑応答は見ていて落ち着かない時間でした。
ほとんど天心への質問
質問の中心は天心でした。
4人の記者全員が天心に質問し、拓真にはそのうち3人が天心と対にして質問しています。自信の裏付け、ファン投票、挑戦者の心構えと、どれも2人を並べて聞く形でした。
気持ちだけの西田とほかの5人
ほかの選手への質問はわずかでした。
西田には「今までの世界戦との違い」が1問だけ聞かれ、坪井、マラジカ、松本、アコスタ、グッドマンの5人は質問を1つも受けていません。4大世界戦をうたう会見としては、少し寂しい偏り方でした。
聞き取りにくかった声
もう1つ、質疑応答で気になったことがあります。
声のかすれた記者の質問は、配信では聞き取りづらい場面がありました。マイクの入り具合を確かめるやり取りもあり、長い質問の中身を追うのにひと苦労しました。
選手以外のトピックス

最後は、選手以外で目に留まった場面です。会見には団体の会長、ジムの会長、通訳さんと、多くの人が関わっています。その人たちの言葉やふるまいにも、この興行らしさが出ていました。ここに書くのは、配信で見ていて私がくすっとしたり感心したりした場面です。試合の中身とは関係ありませんが、会見を見る楽しみの1つとして残しておきます。
陽気なIBF会長
IBFのピープルズ会長は、陽気な人に見えました。
英語のあいさつは明るく、会見場の空気を和らげていました。「すべての選手がけがなく家族のもとに帰れるように」という言葉には、団体のトップらしい気づかいがにじんでいます。
通訳さんの成長
通訳さんの仕事ぶりも気になるところです。
思い出すのは、2023年7月の井上尚弥vsフルトンの試合前の公式会見です。フルトン陣営のトレーナーが、井上のバンテージの巻き方に注文をつけました。このとき、トレーナーの具体的な要望がうまく訳されず、井上が使った「ナイーブ」という言葉も英語の意味で伝わって、誤解が重なったと指摘されています。私にも、日本のマスコミや井上陣営との溝が深まったように見えました。あるボクシング系YouTuberは「通訳としては一流だが、ボクシングの専門知識が乏しいので、あの場でうまく訳せなかったのでは」と解説していました。私の記憶では、その後も同じ女性の通訳さんが担当していて、毎回うまく訳せるようになっていると感じます。ボクシングのことを勉強しているのだろうなと思いました。それでも今回、坪井の試合を「ミニマム級」と訳す場面がありました。階級名は、英語だとまた言い方が違うのでしょう。やはり難しいようです。
西田より口が強い枝川会長
いちばん笑ったのは、西田の陣営の枝川会長です。
「グッドマン選手が来てくれたら激しい戦いになると思いますんで、グッドマン、カモン」とあおり、会場は笑いに包まれました。隣の西田も思わず失笑しています。枝川会長がいじるのは、今回が初めてではありません。8月3日の追加カード発表会見では、質問した声のかすれた記者の声をいじり、西田の練習相手探しでは坪井に「誰か紹介してや」と絡んで、会場を笑わせています。9月17日の公開練習でも、西田に「塩試合になっとるんちゃうか?」と冗談を飛ばしていました。選手より会長のほうが口が強いのが、この陣営の面白さです。
かわいい浜田代表
帝拳の浜田剛史代表のあいさつも、印象に残りました。
「泣いても笑っても27日明後日には結果が出ます。ハラハラドキドキの試合になると確信しています」。短いあいさつを淡々と話す姿が、なんともかわいらしく見えました。元世界王者の貫禄と、飾らない人柄が同居している方です。
ボクシングづいてます。6月のある日に、大橋ジム大橋会長、元世界スーパーライト級チャンピオン浜田剛史さんとボクシング談義でした。浜田さんは私の2才年上、同世代の世界の強豪選手の話題で盛り上がりました。 pic.twitter.com/0DfwWjWjoA
— 西村やすとし NISHIMURA Yasutoshi (@nishy03) 2026年7月18日



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