井上尚弥の試合をテレビで見ようとして、どの局にも見当たらないことに気づいた。そんな経験はないでしょうか。かつてボクシングの世界戦はゴールデンタイムの目玉で、大晦日の風物詩でもありました。それがいつの間にか、配信サービスでしか見られなくなっています。いつ、なぜ変わったのでしょうか。調べていくと、地上波にははっきりした最後の日がありました。
- 地上波で最後の世界戦
- 局とジムの結びつき
- 中継が減っていった理由
- 配信に移ったあとの形
結論から言えば、キー局が世界戦を地上波で中継した最後は2022年の大晦日です。この記事では、そこに至るまでの流れと、テレビ局が現在何をしているのかまでを追いかけます。

ボクシング地上波中継の最後

まず答えから示します。キー局の地上波で最後に中継された世界戦は、2022年12月31日の井岡一翔対ジョシュア・フランコでした。WBO・WBA世界スーパーフライ級王座統一戦です。TBS系列28局ネットで大晦日の17時から放送され、関東地区の平均世帯視聴率は8.7パーセントを記録しています。数字だけを見れば、失敗した中継ではありません。それでもこれが最後になりました。
2022年大晦日の井岡一翔
井岡一翔は長く大晦日の顔でした。
2019年から4年続けて大晦日に世界戦を戦い、いずれもTBSが中継しています。2022年のフランコ戦は2団体王座統一がかかる一戦でしたが、結果は引き分けで統一はなりません。それでも地上波の世界戦としては十分な注目度がありました。
翌2023年の大晦日、井岡はABEMAのリングに立っています。デイリースポーツはこのとき「地上波撤退でABEMAが独占生中継」と伝えました。
局ごとの撤退の順番
撤退は一斉に起きたわけではありません。
| 局 | 最後に中継した世界戦 | 時期 |
|---|---|---|
| テレビ東京 | 京口紘人vsアルグメド | 2017年7月23日 |
| フジテレビ | 井上尚弥vsダスマリナス | 2021年6月19日 |
| 日本テレビ | 中谷潤人vsアコスタ | 2021年9月11日 |
| TBS | 井岡一翔vsフランコ | 2022年12月31日 |
5年かけて1局ずつ降りていったことになります。日本テレビは2018年3月の山中慎介対ルイス・ネリ戦でゴールデンタイムの全国生中継をやめ、その3年後に地上波から完全に退きました。
フジテレビの最後は井上尚弥のダスマリナス戦です。当時すでに国内最大のスターだった選手の試合が、地上波での区切りになりました。
定期放送も2026年に終了
世界戦以外の中継も、現在は残っていません。
フジテレビは関東ローカルの深夜枠でダイヤモンドグローブを続けていましたが、2026年3月14日深夜の放送分をもって定期放送を終了しています。1959年から続いた中継の幕引きでした。
中日スポーツはこれを「地上波テレビからボクシングがなくなる」と報じています。ただしこの日の中継は通常興行であり、世界戦ではありません。
地上波時代のカードの組み方

では、テレビが中継していたころの興行はどう組まれていたのでしょうか。いまとは前提がまるで違います。テレビ局はジムごとに組む相手が決まっていました。番組名を見ると、その結びつきがそのまま残っています。放送局は映像を流すだけの立場ではなく、興行の主催者側に名を連ねることもありました。世界戦の扱いも、現在とは大きく異なります。
局とジムの結びつき
番組名と提携先を並べてみましょう。
| 局 | 番組名 | 組んでいたプロモーター |
|---|---|---|
| 日本テレビ | ダイナミックグローブ | 帝拳 |
| TBS | ガッツファイティング | 協栄 |
| フジテレビ | ダイヤモンドグローブ | 三迫 |
| フジテレビ | FUJI BOXING PHOENIX BATTLE | 大橋 |
| テレビ朝日 | エキサイトボクシング | 極東 |
| テレビ東京 | ヒートアップボクシング | 協栄 |
1つの番組が1つのジムと結びついていたことが分かります。井上尚弥がフジテレビで中継されてきたのも、所属する大橋ジムとフジの関係によるものでした。
逆に言えば、他のジムの選手が同じ番組に出ることは想定されていません。興行は番組の単位で完結していたわけです。
放送局は主催者の一員
テレビ局の関わりは中継だけにとどまりません。
井上尚弥が2階級制覇に挑んだ2014年12月30日の興行は、記録に大橋ジムとフジテレビの主催興行と記されています。局が主催者として名を連ねていました。
放送権を買うだけの関係ではなく、スポンサーに近い立場です。強い王者に局が付き、その王者の興行を局が支える。そういう構図が長く続いてきました。
世界戦は特別扱いの興行
世界戦は、ふだんの定期番組とは別建てで組まれています。
日本テレビと帝拳の定期興行はダイナミックグローブという名前でした。ところが長谷川穂積や山中慎介の世界タイトルマッチになると、ワールドプレミアムボクシングという別の名称に変わり、プライムタイムで生中継されます。ふだんの枠とは扱いが違ったのです。
世界戦が複数並ぶときは「ダブル世界戦」「トリプル世界戦」とわざわざ銘打たれました。2つ並べば見出しになる。それが当時の水準です。
地上波から退いた理由

ではなぜ、テレビは降りたのでしょうか。理由は1つではありません。新しい格闘技の台頭と放映権料の高騰が重なり、そこへインターネット配信という受け皿が現れました。視聴率が取れなくなったから、という単純な話でもありません。しかもこの流れは日本だけの現象ではなく、海外では3年ほど早く同じことが起きています。有料で見る仕組みそのものも、もとをたどれば輸入されたものでした。順に見ていきましょう。
新興格闘技の台頭
まず地上波の枠を奪われました。
1990年代から2000年代にかけて、K-1やPRIDEといった新興格闘技が急速に人気を集めます。放送局の関心はそちらへ移り、ボクシング中継の枠は目に見えて縮小していきました。
フジテレビはこの時期にゴールデンタイムでの中継を一度やめています。1992年から20年あまり、同局のゴールデンにボクシングは戻りませんでした。
放映権料の高騰
次に費用の問題です。
スポーツ中継そのものが、世界的な放映権料の高騰によって減少していきました。ボクシングもその例外ではありません。視聴率が取れても、権利にかかる金額が見合わなければ番組は続きません。
テレビ東京が2017年に完全撤退した背景にも、この事情が挙げられています。
海外は3年早い転換
同じ変化は海外で先に起きています。
2017年にトップランクがHBOを離れてESPNと長期独占契約を結び、翌2018年9月にはHBOが45年の歴史を経てボクシングから撤退すると発表しました。同じ月に配信サービスのDAZNが米国へ参入しています。
日本の転換点は2021年です。海外の動きから3年遅れて、同じ場所にたどり着いたことになります。
PPVはアメリカ発
有料視聴の仕組みも輸入されたものでした。
日本で初めて世界戦がペイパービューで生中継されたのは1999年9月5日、ディレクTVによる中継です。文献にはこの方式について、アメリカで既に主流となっていた方式を採用したと記されています。
ディレクTVは翌2000年に日本から撤退し、この試みは長続きしません。それでも仕組みそのものは、20年以上たって配信サービスの形で戻ってきました。
配信時代のカードの組み方

配信に移ってから、興行の組み方そのものが変わりました。1つの興行に世界戦がいくつも並ぶようになっています。テレビ時代には2つ並べば見出しになったものが、いまは特別な呼び名すらつきません。その一方で、テレビ局が消えてしまったわけでもありませんでした。画面に映らなくなっただけで、いまも制作の現場に残っています。
転換点は2021年12月
境目になった試合がはっきりしています。
2021年12月14日、両国国技館での井上尚弥対アラン・ディパエン。この試合はひかりTVとABEMAのペイパービューで配信され、井上の国内世界戦で地上波生中継がないのは初めてのことでした。
試合前、日刊スポーツは「時代変わってボクシングならPPV」という井上本人の言葉を見出しに掲げています。当事者にも自覚のある転換だったわけです。
1興行に並ぶ複数の世界戦
興行の規模も変わりました。
2024年10月に開催されたPrime Video Boxing 10は、13日と14日の2日間で7つの世界戦が組まれています。テレビ時代なら「トリプル世界戦」と銘打たれた規模を、はるかに超えました。
この形式は配信が生み出したものではありません。2019年6月にはTBSがトリプル世界戦を地上波で放送しています。芽は地上波の末期にあり、配信がその規模を押し広げた形です。
4団体化で増えた王座
並べられるようになった背景には、王座の数もあります。
日本ボクシングコミッションが加盟していたのは、長らくWBAとWBCの2団体だけでした。IBFとWBOへの加盟は2013年4月1日付で、ここから日本の選手が挑戦できる世界王座は倍になります。
日本人王者が増えれば、1つの興行に世界戦を並べることも現実的になります。制度の変更が興行の形を変えた面もあるでしょう。
裏方に回ったテレビ局
そして、テレビ局はいなくなっていません。
フジテレビは2021年を最後に世界戦の中継をやめましたが、2022年から2024年はAmazon Prime Video、2025年からはU-NEXTの映像制作に関与しています。看板が配信会社に替わっただけで、映像を作っている会社は変わっていません。
日本テレビと帝拳のダイナミックグローブも、42年の放送を終えて2023年4月にU-NEXTへ移りました。番組名は今もDYNAMIC GLOVE on U-NEXTとして続いています。
よくある質問

地上波と配信をめぐって検索の多い疑問をまとめます。最も多いのは今どこで見られるのかという点でしょう。ここでは中継の行方だけでなく、費用のことや海外の試合の見方まで、5つに絞って簡潔にお答えします。詳しい配信元は選手ごとに異なりますので、個別の記事もあわせてご覧ください。
地上波でまた見られますか?
定期的な中継の予定はありません。フジテレビの担当者は単発での放送の可能性に触れていますが、確約されたものではないでしょう。
今はどこで見られますか?
興行ごとに異なります。帝拳が関わる大型興行はAmazon Prime、大橋ジムの興行はLemino、亀田興毅の3150FIGHTはABEMAが中心です。
なぜ有料になったのですか?
放映権料が高騰し広告収入だけでは成り立たなくなったためとされています。視聴者から直接集める形に移りました。
NHKは中継しないのですか?
定期的な中継はありません。2019年のWBSS決勝がBS8Kで放送され、57年ぶりの中継として話題になりました。
海外の試合はどこで見られますか?
WOWOWのエキサイトマッチが1991年から続いています。スカパー!経由でも視聴できますが、WOWOWを直接契約するほうが月額は安く済みます。

本ページの情報は2026年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。
まとめ

キー局が世界戦を地上波で中継した最後は、2022年12月31日の井岡一翔対ジョシュア・フランコでした。テレビ東京から始まった撤退は5年かけて4局に及び、番組ごとにジムと結びついていた時代は終わります。理由は新興格闘技の台頭と放映権料の高騰で、海外では3年早く同じ変化が起きていました。ただしテレビ局は消えたのではなく、配信の映像制作に回っています。フジテレビはAmazon PrimeとU-NEXTの制作に関わり、日本テレビと帝拳のダイナミックグローブもU-NEXTで続いています。変わったのは看板であって、作り手ではありません。誰がどこで配信するかは興行ごとに決まりますので、目当ての試合がある方は選手別の記事もあわせてご確認ください。



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